東北岩手県を宮沢賢治はイーハトーブと呼びました。
イーハトーブの春は雪が溶けるところから始まります。けれど、すぐには春はやってきません。一度溶けた雪が凍ってまた溶けて…ということを繰り返しながら、本当の春へとなっていくのでしょう。
雪が凍っていつもは歩けない黍(きび)の畑もすすきの野原の上でもすきな方へどこまででも行ける日、「わあ、雪渡りだ」と四郎とかん子はキックキックトントントンと言いながら野山を駆けまわっているうちに、林の中に紛れ込んでしまいます。
そこで二人は狐の紺三郎に出会いました。大人は、狐は人を騙すものと決めかかっていますが、四郎とかん子はそんな大人の思い込みは関係ありません。二人は狐の紺三郎とすっかり仲良くなり、きつね小学校の幻燈会に招かれます。
そうした透明で清純な世界と子どもたちの心を宮沢賢治は美しく描いています。
今、世界中のあちこちで大きな災害が起こり、たくさんの人々が亡くなっています。それは私達が決して侵してはならないものを性急に人間の身勝手で壊してしまい、イーハトーブが怒っているのかもしれません。
賢治が教えてくれた自然のルールをきちんと守り、人間は自然に生かされている存在なのだということを思い、人間がどうやって生きるかということを私は考え続けたいと思います。