「愛をこめて言いたい。
創造することは抵抗すること。
抵抗することは創造することだ。」
松井洋子
- この言葉は、第二次世界大戦でヒットラー率いるナチスに抵抗するレジスタンス活動に参加したフランスの活動家たちが、現代の若い世代に向けて送ったメッセージです。人類学者ジェルメーヌ・ティヨンさんもレジスタンス活動を行った一人で、秘密警察に逮捕され、ドイツのラーフェンスブリュック女性強制収容所に送られました。過酷な日々を生き抜いた彼女は、収容所での体験を学者の目で冷徹にとらえ戦後2冊の本に書き上げました。そんなジェルメーヌさんの机のなかで63年間眠り続けた原稿がありました。彼女が収容所のなかで密かに書いていたオペレッタの脚本です。そのオペレッタはジェルメーヌさんが100歳の誕生日を迎えた2007年、パリで初めて上演されました。
- どのような時代になっても、人間が人間として生きていく上で、廃れることがないのは「芸術の力」だと私は確信します。強制収容所のような過酷な状況におかれても、芸術的な感性や心を失わない人々は確かに存在し、自分自身とまわりの人々を支えつつ生き抜いたことが何よりの証ではないでしょうか。
- いま、社会は不安定で、経済もその基盤が大きく揺らいでいます。物質的な価値観が問い直される今は、「人間として生きていく上で何が大切なのか」を考える絶好の機会だと思います。
- 『冒険者たち』は、自分たちを絶滅させようとするイタチに対して立ち上がったネズミたちが力を合わせ、仲間のために命をかけて戦う物語です。彼らの武器は銃や刀でなく、歌と踊り──つまり「芸術」です。そんな物語に私はひかれ、セリフではなく体の動きと音楽で物語を表現する“ムーブメント”に挑戦しました。伝統を大切にしながら、コンテンポラリーな感性で新しいことに挑んでいきたい──と考えたからです。
- 舞台をつくるなかで、ニューヨークで活動するマース・カニングハム・ダンスカンパニーから二人のダンサーを招き指導を受けました。マース・カニングハム・ダンスカンパニーは、1964年以来何度も日本で公演を行い、今は亡き偉大な現代音楽家ジョン・ケージとの共演活動も活発で、日本にも多くのファンを持っており、私もその一人です。そのレッスンで学んだ動きもふんだんに取り入れながら演出を進めました。
- 音楽家の松井学がからころ──からだとこころの出会いの会──の輪に加わり、ロック歌手の染谷西郷(FUNKIST)さんの助けを借りながら楽曲をつくりました。自分たちの歌、音楽、ダンスを披露できたことは大きな私たちの喜びです。
- 公演当日、原作者の斎藤惇夫さん、児童書の世界で日本一といわれる兵庫県太子町の図書館を育てられた小寺啓章さんにもお越しいただけたことは、思いも掛けなかったほどの光栄でした。芝居のはねた後にはからころの子どもたちと若者たちと斎藤さん、小寺さん、そして当日飛び入りで参加してくれた染谷西郷さんを囲んで歓談のひとときを持つことができなのも大きな喜びでした。