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KarakorStage 2005 Winter
アルカイック・ラブ — 最古の愛 —

タブーに光をあてる舞台

松井洋子

今年の8月、私はからだとこころの出会いの会──からころ──の仲間たちと一緒にサイパンとテニアンを訪れました。天皇が戦後60年たって初めてサイパンを訪れた2ヵ月後でした。そこで出会ったホセさんという70代半ばの老人は「天皇陛下がサイパンまで来られたのなら、テニアンまで来て欲しかったよ」ときれいな日本語で言いました。私が「なぜですか?」と思い切ってたずねると、「原爆を積んだ飛行機が日本へ向けて飛び立った場所を見てほしかった」という答えが返ってきました。その言葉で、ホセさんは戦後ずっと“天皇”の名のもとに死んでいった数限りない兵士や民間人のことを考えてきたのだと合点がいきました。ホセさんは、サイパンやテニアンのあるマリアナ諸島で生まれた原住民──チャモロ人です。
 軍服に菊の紋をつけて戦い、死んでいった兵士たちも天皇制の被害者だといえるでしょう。砲弾を受け、あるいは飢餓の末に死んでいった兵士の姿が浮かんできました。しかし食べるものもないサイパンやテニアンで、彼らが現地の人々の食べ物を奪い、いためつけたのも事実です。
 ホセさんが子どもの頃に接した日本人は、やさしかったということです。しかし戦争が始まると一変しました。「ひどかったよ」とホセさんは住民のことをまったく考えない日本の軍隊の横暴さを語りました。ホセさんのお祖父さんは“肌が白い”という理由でスパイの容疑をかけられ、殺されました。まだ子どもだったホセさんは命からがら山の中を逃げまどい、戦争が終わった後もそのことを知らず、食べるものもない状態で山の中に隠れていたそうです。戦争中の悲惨な体験を淡々と語るホセさんの言葉に、私はチャモロの人々に対して「もうしわけない」という気持ちでいっぱいになり、胸が痛みました。そして、天皇のことを話したり考えたりするのがタブー視されている日本の風潮を情けなく、恥ずかしく感じました。
 今回の舞台では「民衆の肉を食べる支配者」という象徴的な表現で、上の者が下の者を食いものにするという、日本だけでなくアメリカ、イラク、朝鮮などの国々でも同様の問題を追求しています。演じる者、観る方々がともに「国家とは?」「国民とは?」を考えるきっかけになればと願っています。権力者や親が子どもや若者を食いものにするような歴史は決して繰り返してはならない──芝居の演出をしながら、私はその決意をあらたにしています。



2005年12月24日(土)25日(日)
15時30分開演
ピッコロシアター中ホール
(兵庫県尼崎市)
作 くるみざわしん
演出 松井 洋子

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