HOME | Karakoro Stage | KARAKORO STAGE 2016 ストーリー

   
   






その一
子狐の紺三郎

       
  雪がすっかり凍って堅くなり、いつもは歩けない黍(きび)の畑の中でもすすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄でも行けます。
 お日様が真っ白に燃え雪をぎらぎら照らし木々はザラメをかけたように霜でぴかぴか光っています。四郎とかん子は小さな雪沓(ゆきぐつ)をはいてキックキックと野原に出ました。二人は森の近くにやってきて高く叫びました。「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。狐の子ぁ、嫁ほしい、ほしい。」と。
       

『雪の野原』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
 こんな面白い日がまたとないというばかりに四郎とかん子はキックキックと足をならし歌いながら森へ向かいました。「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
 二人は森の近くまで来ました。二人は森へ向かって又高く叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。狐の子ぁ、嫁ほしい、ほしい。」四郎とかん子は森の中になにか気配を感じて、しばらくしいんとした後、二人がもう一度叫ぼうとして息を飲み込んだ時森の中から「凍み雪しんしん、堅雪かんかん」と言いながら白い狐の子が出てきました。
       

『四郎、かん子、そして子狐の紺三郎』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       

 「四郎はしんこ、かん子はかん子、おらはお嫁はいらないよ。」と狐は言いました。四郎が笑って言いました。「狐こんこん、狐の子、お嫁がいらなきゃ餅やろか。」

すると、狐の子は面白そうにかえしました。
「四郎はしんこ、かん子はかん子、きびの団子をおれやろか。」
「狐こんこん狐の子、狐の団子は兎(うさ)のくそ。」とかん子が言います。
四郎も言います。「狐こんこん狐の子。狐の団子は兎(うさ)のくそ。」と。
       

『ひどいウソ』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
 子狐紺三郎が笑って言いました。「いいえ、決してそんなことはありません。私らは全体いままでひとをだますなんてあんまりむじつの罪を着せられていたのです。」
 四郎が驚いて尋ねました。「狐が人をだますなんてうそなのね?」
 紺三郎が熱心に言いました。「うそですとも。とにかくお団子をおあがりなさい。私の差し上げるのは、ちゃんと私が畑を作って種を播(ま)いて草をとって刈って叩いて粉にして練ってむしてお砂糖をかけたのです。いかがですか。ひとつ差し上げましょう。」
       

『12歳以上はお断り』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
 紺三郎が「入場券をあげておきましょう。何枚あげましょうか?」と尋ねると、四郎が「そんなら5枚おくれ。」と答えました。
「5枚ですか。あなたがたが2枚に後の3枚はどなたですか。」「兄さんたちだ。」と四郎が答えます。「兄さんたちは十一歳以下ですか?」かん子も答えます。「いや、三郎兄さんは四年生だからね。八つの四つで十二歳。」
すると紺三郎が、「それでは残念ですが兄さんたちはお断りです。あなたがただけいらっしゃい。特別席をとっておきますから。

幻燈は第一が『お酒を飲むべからず。』
あなたの村の太右衛門さんと清作さんがお酒を飲んで目がくらんで野原にあるへんてこなおまんじゅうやおそばを食べようとしたりするんです。

幻燈の第二は『罠に注意せよ。』
去年、私共のこん兵衛が野原で罠にかかったときのことです。左の足を罠に入れこんこんばたばたこんこんこん こんこんばたばたこんこんこん とあわてふためきます。

幻燈の第三は『火を軽んずるべからず。』
去年、私共のこん助があなたのお家に行って焼いた魚を取ろとして尻尾を焼いたときのことです。お尻に火がつききゃんきゃんきゃん お尻に火がつききゃんきゃんきゃんと逃げまどいます。」と話します。

 狐の紺三郎が歌います。
「凍み雪しんこ、堅雪かんこ、野原のまんじゅうはポッポッポ
酔ってひょろひょろ太右衛門が、去年、三十八、たべた。
凍み雪しんこ、堅雪かんこ、野原のおそばはホッホッホ
酔ってひょろひょろ清作が去年十三ばいたべた。」

四郎が歌います。「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が、
左の足をわなにいれ、こんこんばたばたこんこんこん。」

かん子も歌います「狐こんこん狐の子、去年狐のこん助が、
焼いた魚を取ろとしておしりに火がつききゃんきゃんきゃん。」

四郎とかん子はすっかりつられて一緒に歌い踊ります。
「キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
キック、キック、キック、キックトントントン。」
三人は踊りながらだんだん林の中に入って行きます。林の中の雪には藍色の木の影がいちめん網になって落ち、日のあたるところには銀の百合が咲いたようです。

 紺三郎が言いました。「鹿の子も呼びましょうか。」四郎とかん子は手を叩いて喜び、三人は一緒に叫びました。「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、鹿の子ぁ、嫁ほしい、ほしい。」
 遠くの方で鹿の子のかぼそいいい声がしました。
「北風ぴゅうぴゅう風三郎、西風どうどう又三郎
北風ぴゅうぴゅうかんこかんこ、西風どうどうどっこどっこ。」
       

『そして鹿の子』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
鹿の子も入ってみんなが楽しく踊り出しました。
「北風ぴゅうぴゅう風三郎、西風どうどう又三郎
北風ぴゅうぴゅうかんこかんこ、西風どうどうどっこどっこ。」

紺三郎があたりを見まわしてから「雪が柔らかになるといけませんからもうお帰りなさい。
今度月夜に雪が凍ったらきっとおいで下さい。幻燈をやりますからぜひおいで下さい。」と言いました。

四郎とかん子は悦(よろこ)んでうなずきました。
二人は歌いながら銀の雪を渡っておうちへ帰りました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ……。」
       

       

その二
狐小学校の幻燈会

       

『月夜に雪が凍った夜』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
 青白い大きな十五夜のお月様が静かに氷の上山からのぼりました。
四郎が「今夜狐の幻燈会なんだね。行こうか。」とそっと言いました。
「行きましょう。行きましょう。狐こんこん狐の子、こんこん狐の紺三郎。」とかん子ははねあがって高く叫んでしまいました。
一郎兄さんが「お前たちは狐のとこへ遊びに行くのかい。僕もいきたいな。」と言いました。
四郎は「大兄さん、狐の幻燈会は十一歳までですよ、入場券に書いてあるんだもの。」と言うと
一郎兄さんが「どれ、ちょっとお見せ、ははあ、学校生徒の父兄にあらずして十二歳以上の来賓(らいひん)は入場をお断り申し候(そろ)、狐なんてなかなかうまくやっているね。僕はいけないんだね。仕方ないや。行っておいで。大人の狐にあったら急いで目をつぶるんだよ。僕が囃(はや)してやろうか。堅雪かんこ、凍み雪しんこ。狐の子ぁ、嫁(よめぃ)ほしい、ほしい。」と叫びました。
       

『雪沓はいて』

作詞:佐藤 哲也、廣畑 由佳、松井 洋子 作曲:松井 学

       
 お月様は空に高く登り青白いけむりに包まれています。二人は森の入り口に来ました。
森の中の空き地ではたくさんの狐が楽しげにしています。
狐の生徒の前の木の枝に白い一枚の敷布(しきふ)が下がっています。
紺三郎が「今晩は、よくおいででした。先日は失礼いたしました。」と言いました。 四郎とかん子がびっくりして振り向くと紺三郎が立っています。紺三郎は水仙(すいせん)の花を胸につけています。
四郎がおじぎをして言いました。
「この間は失敬。それから今晩はありがとう。」紺三郎が「どうかごゆるりとなすって下さい。私は一寸(ちょっと)失礼いたします。」と言って向こうへ行きました。
 胸にどんぐりのきしょうをつけた白い狐の子がやってきて丁寧にお辞儀をして
「今晩は。お早うございます。」と言いました。
       

『入場券はお持ちですか?』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
 紺三郎はエヘンエヘンとせきばらいをしながら幕の横から出てきて丁寧におじぎをしました。紺三郎の開会の辞です。「さて只今(ただいま)から幻燈会をやります。みなさんは目をまんまろに開いて見ていて下さい。今夜は大切な二人の人間のお客さまがありますからどなたも静かにしないといけません。決してそっちの方へ栗の皮を投げたりしてはなりません。それではお楽しみ下さい。」
 狐の生徒は皆悦(よろこ)んで手をパチパチ叩きます。笛がピーと鳴り『お酒をのむべからず』と大きな字が幕にうつります。
       

『幻燈会 前編』

作詞:佐藤 哲也、廣畑 由佳、松井 洋子 作曲:松井 学

       
 幻燈が消えると、紺三郎が「ここでしばらくのおやすみをいただきます。」と言いました。
狐の女の子がきび団子をのせたお皿を持って来きて、「きび団子です。どうぞ、おめしあがり下さい。」と言いさし出すと、四郎とかん子はすっかり困ってしまいました。周りの狐たちは「喰うだろうか、ね、喰うだろうか、どう思う?」などと口々に言って四郎とかん子をのぞきに来ました。「たった今、太右衛門さんと清作さんが悪いものを知らないで食べたのを見たんだもの…。」とかん子が言います。狐たちが「喰うだろうか」とささやき合いながら四郎とかん子をのぞきこみに来ます。四郎が決心して言います。「ね、食べよう。お食べよ。僕は紺三郎さんが僕らをだますなんて思わないよ。」
 そして二人はきび団子をみんな食べました。そのおいしいことはほっぺも落ちそうです。狐の学校生徒は立ち上がり悦んでみんなおどりあがってしまいました。
       

『ひるはカンカン日のひかり、よるはツンツン月あかり』

作詞:松井 洋子 作曲:松井 学

       
 笛がピーとなり、幻燈会後編が始まりました。
       

『幻燈会 前編』

作詞:佐藤 哲也、廣畑 由佳 作曲:松井 学

       
 笛がピーと鳴り幕は明るくなり狐の生徒の一人が「みなさん。今晩の幻燈はこれでおしまいです。」とあいさつをします。
       

『閉会の辞』

作詞:佐藤 哲也、廣畑 由佳、松井 洋子 作曲:松井 学

       
 狐の生徒達が栗だの青びかりの石だのをおみやげにと渡してくれました。かん子と四郎はおじぎをしてうちの方へ帰りました。二人は森を出て野原を行きました。その青白い雪の野原のまん中で三人の影が向こうから来るのを見ました。それは迎えに来た兄さん達でした。
       
       

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