KARAKORO STAGE 2017 公演メッセージ of karakoro2017


| HOME | Karakoro Stage | KARAKORO STAGE 2017 公演メッセージ |

   
   

   
   


進化する舞台
『バグダッドの兵士たち』

     吉原 豊司

 この『バグダッドの兵士たち』には「ミュージカル版」というサブタイトルがついています。それというのも、この劇の原作は所謂ストレート・プレイ(話劇)で、ミュージカルではなかったからです。

 原作は登場人物5人の小規模な劇でした。5人はいずれも若いアメリカ兵。洗脳的に教え込まれた「戦争の理念」と、状況次第では無辜の民間非戦闘員まで惨殺しなければならない「戦争の現実」。そんな理念と現実との矛盾に悩み、心を蝕まれていく若い兵士たちの様子が活写されています。

 原作を書いたのはカナダの若手劇作家ジェイソン・マガノーイ。書いた当時、彼はまだ二十歳そこそこで、劇中の5人と同じ「兵役適齢期」でした。世代を同じくする仲間たちに、戦争というものの持つ矛盾と惨たらしさを訴える「警告のドラマ」を書きたかったのだと彼は言っています。

 原作『バグダッドの兵士たち』は2007年にモントリオールで初演されて大好評。その勢いを駆って2010年にはトロントで再演された後、東京でもピープルシアターによって二度も翻訳上演されるに至りました。

 その東京版の構成・演出にあたったのが、ほかならぬ森井睦さん。森井さんは登場人物5人にすぎなかった小さな原作を総勢20人に及ぶ壮大なドラマに仕立て直しました。追加された15人の登場人物はいずれもアラブ人。原作ではアメリカ兵だけが語っていた一面的な物語にアラブ人の視点を付け加え、劇の構成を複眼的・立体的に膨らませたのです。

 そして今回のミュージカル版『バグダッドの兵士たち』では、舞台づくりに参加される人たちの数が何と90人を超えるとのこと。アメリカ兵、アラブ人に加え、かつては繁栄を極めたバグダッドの町が戦火に破壊されて行くさままでが物語に加わり、舞台は一層深みのあるものになっている様子です。

 戦争をテーマにした劇というと、とかく重苦しく凄惨な仕上がりになりがちです。松井洋子さんの強いリーダーシップで実現したカラコロとピープルシアターのコラボレーションが、そんな重苦しさを歌と踊りで吹き飛ばし、ミュージカル版『バグダッドの兵士たち』を楽しく、それでいて強いメッセージを持つ重層的な作品に進化させてくれるものと、私は密かに期待しております。


オーケストラでの初めてのミュージカル挑戦 


        森井 睦

一昨年の十月、私たちピープルシアターが上演した、吉原豊司さんが翻訳された、カナダ人の若い作家、ジェイソン・マガノーイさんの「バグダッドの兵士たち」を松井洋子さんが観られた時、この作品、ミュージカル化できませんかという言葉から、この企画は始まった。

この原作は、バグダッドでの五人のアメリカ軍の兵士たちの物語でした。が、この作品を読んだ時、私は、兵士たちが活動していたバグダッドの市民たちも登場させたくなった。そこにはアメリカ兵たちの苦悩や哀しみと同時に、そこに住み、生きている市民たちの生活の中での、笑い、憤り、哀しみがあった筈だし、それを何らかの形で描きたいと思ったからだ。

どうぞ、と原作者からの返事があったので、兵士たちの数も増やし、原作者が描いていない兵士たちの心理や、兵士たちと絡めた市民たちの生活、戦い、憎しみや哀しみのシーンをいくつも付け加えた。それを松井さんは見られたのだ。が、イラク戦争の時の映像はたくさん映し出したのだが、歌とダンスは一つもなかった。
できるのかなぁ~、しかも二か月ぐらいでェ~と、躊躇していたのだが、今度もまた、原作者は、どうぞと言った。

もともと歌やダンスが好きで、私の書いた今までの芝居の中でも歌うシーンや踊りのシーンがある芝居もたくさんある。が、生演奏のオーケストラでミュージカルにして上演するのは初めてのことである。
とにかく歌うシーンでの言葉を考えた。ダンスは、ここで、こんな心境で踊ると書いておけばいいのだが、歌は、このシーンでこんな言葉を歌って欲しいと言うこと
だから、そこに登場する人たちの内なる叫びや、歓びや憤りを言葉にしなければならないからだ。

永年、演出の仕事をやってきているので、ここに歌と踊りを入れよう、ここは歌だけ、ここは踊りだけと言う感覚は経験があるのですぐにできたのだが、問題は歌の言葉だった。時間がかかった。一曲、二曲、出来ると、作曲をしてくれる松井学さんに送った。学さんも、一曲、二曲と出来あがると、聞かせてくれた。そのうちに、
歌の言葉を紡ぎだすことが愉しくなってきた。

皆さんとの稽古に入ると、全員とは言わないでも、みんなで歌ってくれ、踊ってくれる姿を見ると、少しずつ愉しくなってきた。改めて、ミュージカルって面白いなぁと、ましてやオーケストラの演奏でのミュージカルの演出をしていることの、初めての経験を微笑みながら味わっている。



今回の作品のムーブメントは、イラクの伝統的なダンスからヒントを得ました。
からころの作品としての新しさを創り出すために、リズムとステップを組み合わせてみました。
学さんの音楽は、イラクの旋律の神髄をとらえ、私の創作意欲をかきたてるものでした。
いつものように、からころメンバーの人たちは稽古に一生懸命取り組み、演技力を向上させてきています。ピッコロシアターでみなさんと共に舞台を共有することを楽しみにしています。

ジェフ・モーエン


“The movements for this project were inspired by the traditional national dances of Iraq. I incorporated the rhythms and steps from various dances to create someting new for Karakoro.
Gaku-san's music captured the spirit of Iraqi melodies and invigorated my creativity.
As always, the Karakoro members worked hard at every rehearsal and continue to grow in their performance abilities. I am looking forward to sharing the stage with them here at the Piccolo Theatre.

Jeff Moen

OTRロゴ.png


   屋良 一菜

 生活介護施設オーバーザレインボーは開設して5年目を迎えました。メンバーも増え、にぎやかな雰囲気の中、絵画、造形・ダンス・音楽・龍舞といった芸術、そして食事作りや掃除、入浴といった生活の基盤となることに取り組んでいます。
 今年で5年目になるピッコロシアターでの舞台では「そう、いつの日にか」の夢のシーンにメンバーがスタッフ、ジェフさん、奏佑君達とともに出演します。
 わくわくアートと呼ばれている絵画・造形のプログラムは人気があり、にじみ絵の世界を楽しんでいます。これまでは絵が苦手だと思っていたメンバーも、生き生きとした表情でのびやかに描き上げています。メンバーが描いた作品は、毎年YWCAシャロン千里での「なごみ展」に出展しています。
 小豆島ではエイサーとともに龍舞を披露し、活躍しています。演舞の内容もまっすぐ歩くことからはじめ、走ること、ウエーブをつくる等年々進化しています。
 月に一度のイベントとして、耐寒徒歩や舞台や絵画鑑賞もしています。昨年はシルク・ドゥ・ソレイユそして絹谷幸二の絵画を鑑賞しました。市場での買い物は今年で3年目になりお店の人とも顔なじみになり、楽しんでいます。食事作りの腕も上がり、自分たちで作った食事を「おいしい。」とお互いに分かち合いながらの昼食は楽しみなひとときです。
 今回の舞台は厳しいテーマですが「そう、いつの日にか」のシーンが皆さんの安らぎになればOTRメンバー一同嬉しく思います。


誰もが被害者・加害者になる世界で

松井 洋子 

 チグリス・ユーフラテスの二つの大河にはさまれた地、イラクは、様々な文明が行き交ってきた。中心地の一つバグダッドは古来より交易の中心として栄え、市場には中国の絹織物や陶磁器などが集まった。東西の哲学・数学・自然科学・医学などが融合し、8世紀から9世紀にかけては高度なイスラム文化も発達した。20世紀に入ると石油が発掘され、のちに中東屈指の産油国となった。

 イラク軍のクウェート侵攻(1990年8月)をきっかけに、アメリカ軍を中心とした多国籍軍がイラクを攻撃し、湾岸戦争(1991年1月)が始まった。2003年3月には、「大量破壊兵器保有」などを理由に米英軍がイラク戦争を開始、翌月、フセイン政権は崩壊した。アメリカの占領に反対する武装組織各派の攻撃があいつぎ、2007年ごろにはイスラム教スンニ派とシーア派の宗派抗争となってイラク人どうしが殺しあう状況となった。その後、アメリカ軍は撤退(2011年)したものの、シリア内戦の混乱に乗じて台頭した「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)を名乗る過激組織が勢力を伸ばし、イラク第二の大都市モスルを制圧し、イスラム国(IS)を一方的に宣言した(2014年6月)。戦火と混乱のなかで数百万の住民が土地を追われ、難民、あるいは国内避難民となった。

 舞台稽古を進めていくなかで、私達、からころメンバーはイラクの人びとへの親近感を覚え、イスラム文化への尊敬も目覚めた。「普通の生活への鍵がほしい」という若いアメリカ兵もまた犠牲者であるということにも気づき、心を痛めた。そんな稽古の中で、シリアでサリンなどの化学兵器を使用したのはアサド政権の仕業だと判断したアメリカ軍による空爆などのニュースが飛び込んできた。
 私達からころメンバーは戦争が人びとにもたらすものが一体なんなのかを勉強し、考えた。そして、毎日新聞で「漆黒を照らす」という記事を連載されている玉本英子さんを招き、「イラクの今と戦火の子どもたちの様子」というテーマでお話を伺った。玉本英子さんはアジアプレスに所属する記者で、戦争や紛争地など戦火のなかの市民にまなざしを向けながらイラク、シリアなどで取材活動を続けている。

戦争という巨大な暴力のなかで、いつも犠牲になるのは、小さな子どもたちや女性、そして老人のような力ない人びと。ひとたび戦争が起きると、容易に止めることはできなくなってしまう。周辺国や大国の思惑が交錯し、戦闘の終結に多大な時間や労力が費やされる。戦争が終わっても、隣人どうしの反目や不信によって、報復も起きてしまう。戦争は人を殺し、建物を壊すだけでなく、文化、叡智、財産、個々の人生を引き裂き、コミュニティや隣人関係までも奪ってしまうと玉本さんは語る。

 現地で取材したビデオ映像を交えながらイラクやシリアで起きている戦争の現実を玉本さんは私達に伝えてくれた。
戦争では誰もが被害者・加害者になりうる。遠くの地にある日本も、けっして無関係ではない。
戦闘ですべてを破壊され、家族を殺された人びとのことを知って関心を向けて下さい。同じ時代に生きる人びとが、いま戦火のなかで過酷な暮らしを強いられていることに思いを寄せて下さい」と玉本さんは私達に語りかけた。

 その言葉を私は重く受けとめた。それが戦争を問うための、大切な大きな一歩なのだと私は感じた。
 今回観に来て下さる来場者の皆さんにとってもイラク、そしてシリアなど紛争地の戦火に生きる人たちに寄り添い、そして傷ついた兵士たちにも関心を持つきっかけに、私たちの舞台が役立てば嬉しく思います。



LinkIconHOME

Karakoro Stage

Karakoro Expedition

Self-Help Group

Camp & Workshop

決算公告

Link