松井　学

　 　 　 　
　好奇心旺盛な日本の子ども達が偶然茶色のかばんを目にします。それはユダヤ人の少女ハンナのものです。子ども達はユダヤ人の少女ハンナに強い関心を示しました。名前だけでは物足りない、ハンナのことをもっと知りたい、という子ども達に押されるように石岡史子さんがハンナに何が起こったのか調べ、1933年にユダヤ人に何が起こったのか知り、戦争を二度と起こさないという決意に行き着くまでを音楽で綴ってみました。
　主な登場人物にはテーマになる曲を、そして様々な思いや出来事を歌や曲で表現しています。
　 　 　 　
「影のテーマ」
戦争で亡くなってしまったユダヤ人の沈黙の叫びを弦楽アンサンブルで表現しています。何度も登場する影は進行に合わせて曲想が少しずつ変化しています。
　 　 　 　
「フミコのテーマ」
子ども達の気持ちを大切にし、一人の少女ハンナを明らかにしようと挑戦し続け平和の大切さを伝えようとする強い意志と行動力をフルートのきらびやかさで奏でます。
　 　 　 　
「ハンナのテーマ」
ユダヤ人の少女ハンナはクラリネットの木の響きで人懐っこい可愛らしさを表現しています。
　 　 　 　
「ジョージのテーマ」
ハンナと家族を思うジョージには、あたたかくて深い愛を鍵盤の美しい響きで表現します。
　 　 　 　
「水晶の夜」
水晶の夜とは1938年11月9日の夜から10日の未明にかけてドイツの各地で起こった恐ろしい出来事のことです。ユダヤ人が住む家やユダヤ教の教会、店などが襲撃され、窓ガラスが叩き割られたのです。ガラスが散乱した様子からその事件は『水晶の夜』といわれました。
その悲劇の夜をビブラフォンの静かなハーモニーで作りました。水晶の美しさとは全く違った悲劇を感じていただけるかと思います。
　 　 　 　
第一幕
「茶色のかばん」
ハンナの茶色のかばんには物語が詰まっています。とてつもなく悲しいけれど、人を思いやる気持ちと未来への希望を感じさせます。コントラバスを中心としたリズムセクションが物語の全体を思わせる音楽になっています。
　 　 　 　
「伝えよう、ハンナのことを」
日本の子ども達が茶色のかばんからハンナに何が起こったのか興味を持ち、それを日本中の子ども達に伝えたいと思い、子ども達が作る新聞“小さなつばさ”ができました。不安と同時に夢に満ち溢れた希望を併せ持った曲想になったと思います。
　 　 　 　
第二幕
「ひなどりの歌」
二幕の冒頭で、ハンナの幸せな家族をあらわした歌をジョージが愛をたっぷりと歌い上げ、ユダヤ人達のコーラスへと広がっていきます。
　 　 　 　
「禁止の歌」
ナチスが台頭し、ユダヤ人から次々と自由を奪っていく『禁止の歌』では、コントラバスとフルートでユダヤ人達の悔しさ、苦しさを表現し、更にメロディが一番盛り上がる山場の部分では管楽器セクションのサウンドでユダヤ人の怒りを爆発させます。
　 　 　 　
「願いをこめて」
あらゆる自由を奪われ、ハンナとジョージが元の生活に戻るように瓶に願いを書いた紙を入れ、やるせない気持ちを託します。『願いをこめて』では、弦楽器とオルガンの響きで天に向かって行くような響きを届けられるようなとてもやわらかで素敵な曲にしたいと思いをこめました。
　 　 　 　
「ママ」
愉快でウィットに富んだハンナとジョージのママがナチスに連行されることになりました。親子が引き裂かれる深い悲しみを弦楽器と管楽器の対照的なサウンドで表現してみました。
　 　 　 　
「黄色い星」
ナチスの命令で『ダビデの星』をユダヤ人に身に着けさせました。周りの人達は下手に関わったら処罰されると、それまで仲が良かった人達も素知らぬ顔です。ユダヤ人というだけで白い目で見られます。兵隊の監視のもと星をつけて生活をするユダヤ人の厳しさをオーケストラのサウンドを生かしてアレンジしてみました。
　 　 　 　
「誕生日」
テレジンに連れて行かれる前の移送センター。とじこめられた倉庫の片隅でハンナの11歳の誕生日はジョージと二人きりです。どんなに苦しい状況でもせめて誕生日には思いっきり楽しく二人仲良く踊って欲しいとの願いを込めました。
　 　 　 　
「エピローグ」
エンディング曲ではハンナの事・戦争で犠牲になったユダヤ人のことを知った日本の子どもたちが感じている『こんなことが二度と起こってほしくない』という気持ちをそのまま表現出来る歌にしたいと強く思い作曲しました。
　 　 　 　
　 　 　 　
　毎年、地道に練習を重ねているからころのオーケストラがダンスと音楽をどのように捉え演奏しているのかを聴いてください。それぞれの曲が皆さんにはどのように響くのか感想を聞かせて頂けたら幸いです。