もうすぐ2才になる2012年12月9日の朝、歩き始めたばかりの茉衣ちゃんが、一方通行を逆走してきた車にひかれ、あっというまに、旅立ってしまいました。
そのころ私は子どもたちを中心にからころのメンバーに宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』の読み聞かせをしていました。宇宙のゆっくりとした時間と無限の広がりを描いた銀河鉄道の話に、私は茉衣ちゃんに思いを馳せ、そして皆で静かに冥福を祈りました。
賢治はイーハトーブという言葉をドリームランドとしての日本岩手県と言っています。イーハトーブでは、人も樹も山も川もいっさいが平等です。そして賢治は地球のどこにでもあるイーハトーブの何ともやさしく素朴な世界を、童話や物語の世界に存在させました。
宮沢賢治は37才の短い生涯の中で、2011年3月11日の東日本大震災と同じように多くの命をうばい街を破壊した地震や津波を体験した農民のために働きました。
賢治は農民たちに「労働は芸術であるべきだ」という信念を持ち、ただ働き疲れて寝るのではなく、労働を芸術と同一化するために音楽や芝居が役立つと、主張し、指し示してきました。
賢治はさまざまな面において才能を発揮し、趣味に富んだ人でした。特にベートーベンが好きで、レコードを聴き、セロを買って、生徒や農民のために演奏しました。そこで動物たちとの交流を通じて、音楽をより深く感じ、人間的に成長していく『セロ弾きのゴーシュ』が生まれました。
今回ダンスを振り付けしてくれたジェフ・モーエンさんは、その『セロ弾きのゴーシュ』に登場するカッコウも母ネズミも子ダヌキも、私たちひとりひとりだと言うのです。
昨年の10月1日に、生活介護事業所Over The Rainbowを私は立ち上げました。
からだとこころの出会いの会のメンバーが、これまでに培ってきた芸術活動を投入し、障害のある人たちとともに、音楽を聞き、ダンスや龍を舞い、絵画を楽しんでいます。支え合い、育ち合う、豊かな空気にあふれています。それは賢治の提唱したイーハトーブに通じるあたたかい平和な世界です。
今回の公演では時代を超え、世代を超え、私たちの間にある、いろんな垣根を越え、時空まで超えて、茉衣ちゃんとともに舞台をくりひろげたいと考えています。
Over The Rainbowのメンバー達も、“イーハトーブのカーニバル”に登場します。